「思い出に残る試合」

剣道競技ビクトリーコーチ  武藤士津夫

 日本の伝統文化でもあります剣道は、ただ単に試合による勝ち負けのみを争うものではありませんが、私は、長年にわたり各種大会に出場させていただいて、沢山の経験をしてきました。
 その中で、記憶に鮮明に残っている思い出の試合がありますので、ここでは一試合だけですが紹介したいと思います。
 あれは、平成3年のカナダトロント市に於いて開催されました「第8回世界剣道選手権大会」の個人戦決勝でのことです。
 日本代表選手13名の一人として出場させていただきましたが、間違いなく13番目の代表として戦っていた私が、優勝するとは誰もが予想できなかったことと思います。私自身、とにかく日本の選手と対戦するまでは、負けることが出来ないという、責任感と、重圧に押しつぶされそうなプレッシャーを感じて戦っておりました。
 大きなプレッシャーからなんとか解放されることができて、準々決勝では、前年度、全日本選手権者との戦いとなり、まさに無心の状態で試合が出来たように思います。
 そして、思い出の決勝戦では、もちろん日本人同士となり、お互い技を知り尽くしたなかでの攻防が続き、延長3回目をむかえ、2分が過ぎようとした時のことです。誰かが私の耳元で「面がくるよ」と囁いた瞬間、相手が面に出ようとした一瞬の面が決まっていたのです。
 あの声は、今でも忘れることが出来ません。あれは、天からの声だったと思います。剣道の世界大会は、3年に一度の開催であることから、大会まで3年間の全日本強化合宿は、とにかく厳しいの一言につきるものでありました。何度も逃げ出したいと思ったことかわかりませんが、同じく苦しんでいる合宿メンバーと、励まし合い乗り越えてきたご褒美として、勝利の神様が、私に大きなプレゼントを下さったものと信じております。
 あの一本により私は、「人間は、目標に向かって精神誠意の努力をすることで、結果が必ず付いてくる。」こと、そして、結果を出すまでの過程の大切さを学ぶことができました。



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